「動機」
宇宙の研究をしたいと考えていた時に宇宙線の存在を知り、興味を持ちました。そこから宇宙線に含まれるμ粒子は非破壊検査に利用されていることを知りました。しかしμ⁻から出力される特性X線を利用した物性調査は日本では近年研究され始めたばかりで、あまり実用化が進んでいません。それに加え調査にはμ粒子のビームが必要なため研究が困難であるという欠点もあります。そこで私たちは宇宙線を利用した物性調査の可能性を見出し自分たちでも調査できることを目的とし、金属板を用いたμ粒子の寿命測定を行いました。
「原理:宇宙線」
宇宙線とμ粒子について説明します。宇宙線とは宇宙から飛来する高いエネルギーをもった放射線粒子のことです。主に陽子が含まれています。
このように宇宙線が大気に入射すると、大気中の原子核と相互作用し崩壊したのちにμ粒子や電子などが生成されます。
μ粒子とは電子と似た性質を持った素粒子で、μ+とμ-が存在します。また、寿命は約2.2㎲と大変短いことがわかっています。
「原理:平均寿命」
次に平均寿命についてです。μ粒子はこのように崩壊することが知られています。崩壊は確率的に起こり、個々の粒子では崩壊するまでの時間が全く異なります。このことから、全体の粒子数が1/eになるまでの時間が寿命と定義されています。
「μ-の崩壊および原子核捕獲について」
ここでμ⁻の崩壊および原子核捕獲について説明します。μ⁻は原子核に捕獲され、K殻の電子と置き換わり、図2のようにミュオニック原子を形成することがあります。その後、原子核に吸収され、通常とは異なるプロセスで崩壊することがあります。
通常の崩壊曲線は図3のようになっていますが、すぐに崩壊する粒子よりも時間のかかる方が原子核に吸収される確率が上がり、図4のように崩壊曲線が通常よりも急傾斜になります。 この結果、 𝜇⁻の寿命が見かけ上縮まったことになります。
「実験方法1」
次に実験方法です。実験1では、図5のようにシンチレーション検出器を4枚配置し、崩壊したイベントを選別できるようにして測定しました。μ粒子がシンチレーターに入射する際、多くの場合は図7のように透過してしまいますが、ごくまれに図8のようにシンチレーター上で崩壊することがあります。このようなイベントにおける、崩壊するまでの時間を測定しました。
「寿命の導出」
次に、寿命の導出です。選別されたイベントが崩壊するまでの時間とイベント数をグラフにプロットし、式(1)を用いてフィッティングを行いました。
「金属板なしの解析結果」
次に実験1の解析結果です。図12は約17日分のデータを使用した際の解析結果で、縦軸が崩壊したイベント数、横軸が崩壊するまでの時間を表しています。式1を用いてフィッティングを行い、そこから得られた寿命はτ=2.05±0.05 µsでした。